演目紹介

Program List

ゑんま堂狂言には大きく分けて二種類の演目があります

かたもん

えんま庁写真1

土蜘蛛』や『船弁慶』のような、能系統の派手なたちまわりや勧善懲悪をテーマとした、重厚な演目です。

やわらかもん

えんま庁写真1

でんでん虫』や『にせ地蔵』のように、コミカルな要素を多く持った現代の漫才やコントの原点ともいえる、笑いが絶えない軽妙な演目です。

かたもん

えんま庁写真1 鬼が鉄杖を持って登場し、閻魔法王と帳付(記録係)を迎えます。 そして鬼は縛った亡者を引き連れて再登場し、亡者を座らせて色々といじめて喜びます。 ですが、鬼は亡者の持った巻物の不思議な力に、逆に負かされてしまいます。 そこで鬼は、亡者から無理矢理に巻物を取り上げ、帳付に差し出します。
えんま庁写真2 鬼から巻物を受け取った帳付は、内容を読んで亡者が善人であることを知ります。 そこで閻魔法王に許しをもらい、「閻魔帳」にそのことを書き留め、逆に亡者を解放して鬼を懲らしめ、縛り上げて亡者に番をする様に言いつけ、閻魔法王と共に退場します。
最初は大人しくしていた鬼でしたが、閻魔法王や帳付が去ったと知ると急に強くなり、また亡者をいじめようとしますが、やはり巻物の力には叶いません。
そこで鬼は、亡者から巻物を受け取る代わりに、亡者を背負って極楽へと案内して行きます。

解 説

本公演期間中、きまって最初に演じられる狂言です。
現在復活している狂言の中では、この狂言と「芋汁」のみが笛・太鼓のはやしにのって無言で演じられています。
またこの狂言は本尊閻魔法王への奉納、感謝の気持ちをあらわしたもので、他にはない当狂言特有の演目です。
ちなみに、16世紀中頃の狩野永徳筆、上杉家蔵「洛中洛外図屏風」にも、現在最古の狂言図としてこの狂言が描かれています。

えんま庁解説写真
やわらかもん
芋汁写真1

嫁は丁稚(でっち)を呼び、二人で農作業を始めます。うっかり者の丁稚のしぐさに、嫁は何度も笑います。
そのうちに主人が帰って来たため、嫁は主人の世話を始めます。丁稚には山芋をおろして、芋汁を作るように言い付けられました。
無茶苦茶な丁稚の作業を見て、丁稚は嫁に何度も叱られます。
やがて嫁と主人は、二人で酒宴を始めます。それを見た丁稚は、酒が欲しくて仕事が手につきません。
芋汁写真2 その後なんとか丁稚にも酒が振舞われ、丁稚はそれを大喜びで飲み干し、踊り始めます。
そのうちに、お酒は無くなってしまいます。嫁は丁稚に酒を酒屋まで買いに行くように言い付けます。
丁稚が出かけたあと、主人と嫁は戸締りをして寝入ってしまいます。そこに家人が寝静まったのを知って泥棒が忍び込みます。
次々と衣類を盗み出しているところに、丁稚が酒屋から帰ってきたからさあ大変。

解 説

現在、この演目とえんま庁のみが無言で演じられます。
子役が靭猿の猿役の次に挑戦する大役がこの丁稚役で、セリフ以外の所作や舞いなどの基本となる形を学ぶ重要な演目です。

芋汁解説写真
やわらかもん
花盗人写真1

大名は、太郎冠者をお供にして、花くらべの会に出かけますが、うっかり者の太郎冠者は、用意した花を持って来る事を忘れてしまいました。
太郎冠者は大名に叱られ代わりの花を探して回ります。
そこへ、花を使って一儲けをたくらもうと、心の良くない者が、花を持って現われます。
花盗人写真2 太郎冠者は男の持つ花を都合よく手に入れて、大名に差し出そうと声をかけてみますが・・・

解 説

今はあまり聞かれなくなったコトワザ「盗人を捕えて縄をなう」(泥棒を捕まえてから、その泥棒を縛る縄を作り始める=準備や段取りが悪いことのたとえ)が舞台上で繰り広げられます。
喜劇の原点となる狂言です。

花盗人解説写真
やわらかもん
でんでん虫写真1

高齢になった伯父の長寿の薬に、でんでん虫の黒焼きが良いと聞いた大名は、太郎冠者を呼び、でんでん虫を捕まえに行かせようとします。 しかし、太郎冠者は今まで「でんでん虫」と言うものを見たことも聞いたこともありませんでした。
でんでん虫写真2 そこで、大名からでんでん虫がどのような姿・形をしているか教えてもらい、太郎冠者は屋敷の裏山へ探しに出かけます。
竹やぶの中で眠っている山伏を見つけた太郎冠者は・・・

解 説

狂言を見終わったあとも、ゑんま堂狂言のわらべ歌「でんでん虫」の歌が頭の中をくるくる回ります。
京都の修学旅行生への出張公演で大人気の演目です。

でんでん虫解説写真
やわらかもん
神崎渡し写真1

坂東方のお坊さんが、堺・住吉・天王寺へと参詣の旅にでかけます。 このお坊さん、修行中であるために貧しく、途中で立ち寄った茶店のお茶代も払えません。
あきれた茶店の主人は事情を聞いてかわいそうに思い、この旅先にある神崎川の渡しの船賃を タダにする方法を小坊主さんに教えてやります。
神崎渡し写真2 それは、しゃれ好きの船頭のために、古の名将・平薩摩守忠度 (たいらのさつまのかみだたのり) に引っ掛けて歌った句「平家の公達 薩摩守 心と問わば ただのり」(へいけのきんだち さつまのかみ  こころととわば ただのり=タダ乗り)としゃれを言って船賃を払わない方法でした。
喜んでお茶屋と別れた小坊主さんは、途中でこのしゃれを間違って覚えてしまいます。

解 説

この狂言に登場する御坊は、若い修行中の僧で、元気な若者が演じる事が多いです。
前半のお茶屋とのとぼけた味、中盤のひとり芝居、後半の船守に追いかけられる動きのある演技が見ものです。

神崎渡し解説写真
やわらかもん
寺ゆずり写真1

あるお寺の住職が、高齢のために沙弥に寺を譲ることにしました。ところがこのさんみさん、一本しかない お寺の傘まで気軽に貸し出してしまいます。
寺ゆずり写真2 そこで師匠坊に今後傘を借りにこられた時のことわり方を
「もしもこれから傘などを借りに参られたら、傘はこの間、逮夜に参り、おりふし道にて雨に遭い持って帰って縁側に干しておいたら、比叡山おろしがドッと来て、宙へ舞い上がり、落ちた所が骨は骨、紙は紙とバラバラになりましたによって荒縄でひっ括り、天井裏に吊り下げてござりますれば今日のお間には相なりませぬ。」
というよう教えてもらいます。そこへ今度は、馬を借りにお客様がやってきます・・・

解 説

この狂言に登場する師匠坊も弟子の「さんみ」も、お坊さんにしては間の抜けた俗気のあるところが多く、以前からお寺からはあまり好まれていない演目です。
そのため「ある場所のあるお寺」という架空のお寺の設定になっています。

※逮夜(たいや)=命日の前日  沙弥(さんみ)=若いお坊さん

寺ゆずり解説写真
やわらかもん
雷写真1

あまり名医でないお医者さんが旅をしていました。そこへ、雲のちぎれ目から足を踏み外した雷が落ちてきます。 雷は地上へ落ちた拍子に腰を痛めてしまい、立ち上がる事ができません。
やがて、そのそばで震えている医者を見つけます。
「ヤイ!そこにいるのは誰じゃ!」「イ、医師にござりまする。」「石がものを言うか!」
雷写真2 数々のやりとりの後、雷は医者に自分の腰を治療するようにおどします。
雷嫌いの医者は治療を断りますが、雷は言うことをきかないとヘソを取ると脅します・・・

解 説

背中に太鼓を背負ったカミナリが落ちてきて、おへそを取ろうとする事や、雲の上にカミナリ町がある事など、現代っ子には信じられない設定が数々登場します。
古き良き時代の匂いのする演目です。

雷解説写真
やわらかもん
鬼の念佛写真1

ゑんま堂狂言らしく「えんま庁」「悪鬼赤鬼(あっきしゃっき)」(現在未復活)など鬼の出る演目が数番ありますが この狂言もその一つです。
鬼の念佛写真2 鬼の待つ六道の辻に亡者が一人落ちてきます。
鬼は亡者をせめようと鉄杖をふりあげますが、亡者のとなえる念仏の力にどうしても負けてしまいます。
かなわないと鬼は亡者を極楽へ行かせようとしますが、亡者は地獄で苦しむ多くの罪人を念仏で助けようと策を練ります。

解 説

あの世に向かうための御詠歌や、江戸時代にブームになった大津絵の各絵を解説した「大津絵節」など、歌が盛り込まれた楽しい演目です。

鬼の念佛解説写真
やわらかもん
伯母ヶ酒写真1

酒の大好きな五兵衛は酒屋の伯母の家を訪ね、何とか酒をただ飲みしようと色々と試みます。
しかし、伯母は都合良く飲ませてくれそうにありません。
伯母ヶ酒写真2 そこで五兵衛は、この辺りに酒屋好きの鬼が出たと嘘をついて伯母を怖がらせます。
叔母の家を一度離れた五兵衛は、鬼の面をつけて自ら鬼になりすまし、伯母を脅して酒を飲む事に成功しますが・・・

解 説

ゑんま堂狂言は演者全員が面をつけて演じますが、この狂言は面の上から面をつける珍しい演目です。

伯母ヶ酒解説写真
やわらかもん
いろは写真1

寺子屋の主は高札をあげて読み書きを習う弟子を募集します。
そこへ、読み書きの苦手な小僧さんがその高札を見て寺子屋に弟子入りします。 師匠は、「読み書きの基本はいろは四十八文字」だと「いろは」を教えようとします。
いろは写真2 何度も教えてみますがあまりに覚えの悪い弟子のため、師匠は「私の言う事をすべて口真似して覚える様に」と教えます。
弟子はその師匠の言葉の通り口真似しますが・・・・

解 説

「何事も言うよう口真似を」との言葉に従った大の大の横着坊主。
最後は師匠の怒りをかって倒されてしまいますが・・・

いろは解説写真
やわらかもん
舌切雀写真1

おばあさんに大切に育てた雀のお守りを頼んで、山へ柴刈りに出掛けたおじいさん。
天気も良いためおばあさんも川に洗濯に出掛けました。
舌切雀写真2 留守の間に雀は仲間を呼んで、桶の中の洗濯糊を食べてしまいます。
それを見つけたおばあさんは怒り、二度と糊が食べられない様に、雀の舌を切って雀を逃がします。
帰ってその話を聞いたお爺さんは・・・

解 説

昔話や絵本でお馴染みの、「舌切すずめ」の狂言版です。
絵本などでは普通、おじいさんが主役になっていることが多いのですが、ここでは、おばあさんが主役になっているようです。
途中、道案内役のお百姓さんが登場する事で、ほのぼのとした雰囲気が出ています。
幕や大道具を使わない狂言の舞台上で、昔話のいくつもの場面展開をどう見せるのか 数々の特徴がある狂言です。
杖・しょいこ・たらい・クワ・行李に化け物など、ゑんま堂狂言の中で一番小道具が沢山必要な狂言です。

舌切雀解説写真
やわらかもん
にせ地蔵写真1

最近、竹三郎と梅三郎は二人そろって幸せに出会うことがありません。
そこで竹三郎はひともうけを計画し、梅三郎を誘い出します。
にせ地蔵写真2 村はずれまで来た二人。竹三郎は梅三郎に、この場所にお地蔵さまをお祀りすれば、お供え物が沢山あがるのではないかと話します。
そのためには梅三郎にお地蔵様の格好をするようにもちかけます。
お地蔵様になるのはイヤだと、梅三郎は断りますが・・・

解 説

この狂言でお地蔵さんを拝む時に唱えられるお経
「なむ、クシャクシャクシャ」
ゑんま堂狂言独特のお参りの仕方です。

にせ地蔵解説写真
やわらかもん
福釣り写真1

宝の虫干しがあると聞いた参詣人は庄屋の屋敷へ出かけます。
福釣り写真2 訪問して色々と説明を受けてみると、ゑんま様がお持ちになった不老長寿のごりやくのあるシャクや頭からかぶるとその人の姿が見えなくなる雪帽子、そして欲しい物なら何でも釣れる恵比寿様が使われたという釣り竿をみつけ興味を示します。

解 説

「釣ろうよ、釣ろうよ。見目の良いの(美人)を釣ろうよ。
釣ろうよ、釣ろうよ。17~8(歳)を釣ろうよ。」
なんとも欲の深い参詣主です。

福釣り解説写真
やわらかもん
与平狐写真1

何にでも化けることができ、人間そっくりに立ち振る舞い、話ができるまでに修行を積んだ若者狐の与平。
人間の娘「お幸(おこう)」と恋仲になり、狐である事を告げられないまま、いつも顔を隠して会っていました。
顔を見せると約束した日、顔・形まで人間にして欲しいと師匠狐に頼みますが、無理な願いだと断られてしまいます。
与平狐写真2 どうしてもと願う与平に、仕方なく師匠狐が出してきた2つの木の実。人間になれるが、狐を殺めてしまう赤い木の実。
狐に戻れるが、それまでの出来事をすべて忘れてしまう白い木の実。与平は二つの木の実を持ってお幸に会いに行きます。
顔を隠したまま、木の実の話をして説得しようとする与平でしたが、お幸の囃子に乗せられ、うっかりと狐の顔を見せてしまいます。
驚いて叫び、逃げ回るお幸、困った与平はお幸を押えつけて・・・

解 説

平成28年5月に、ずっと使われないまま保存されていた狐面を生き返らせるため、新作として作って上演しました。
狐の鳴き声「コイーン」とアクションは、途絶えた演目「狐釣り」の中で使われていたものを採用しました。

与平狐解説写真
やわらかもん
悪太郎写真1

酒好きの太郎は、大酒を飲み、いつも悪いことばかりしているため、悪太郎と呼ばれています。
今日も大酒をして道の真ん中に寝ています。
その太郎を見て困り果てた伯父は、太郎の髪の毛を剃り、僧の姿にしてしまいます。
悪太郎写真2 目が覚めた太郎は僧の姿になった自分に驚き、元に戻して欲しいと伯父に迫りますが、説得され、修行僧になる決心をします。
伯父につけてもらった僧名が「ナムアミダブツ」。
そこへ「ナムアミダブツ」とお経を唱えながら御坊が通りかかったから話がややこしい。

解 説

ナギナタを振り回す暴れ者の悪太郎も、僧の姿にさせられるとおとなしくなり、なぶり坊主と木遣り節や相撲取り節など、持ち芸のバトルを繰り広げます。

悪太郎解説写真
やわらかもん
ほうらく割り写真1

一の森で開かれる朝市で、一番の棚に店を出した者に永代供養が与えられると聞いた鞨鼓屋(かっこや)は夜明け前の一番に一の森に訪れて鞨鼓を飾りつけ、疲れからそのまま寝込んでしまいます。
遅れてやってきたほうらく屋は、一番になれなかった事をくやみ、飾ってある鞨鼓を下げ、自分のほうらくを一の棚に飾って、一番に来たように装います。
ほうらく割り写真2 目が覚めて気づいた鞨鼓屋は、ほうらく屋とけんかを始めます。
二人のさわぎを聞きつけ仲介に入った庄屋は、どちらの言い分が正しいか調べますが・・・・・

解 説

この狂言は、ゑんま堂で一年を通じ、お参りのお客様の願い事を書いて奉納されたほうらくを舞台から落として割ります。
ほうらくが割れると願い事が叶うと伝えられています。

ほうらく割り解説写真
やわらかもん
木の本地蔵写真1

木の本地蔵にお参りに来た座頭。日が暮れたため、お地蔵様のひざ元でひと宿をします。
その後を付けてきた護摩の灰は、寝ている座頭のお金を盗みます。
目が覚めてお金が無い事に気づいた座頭は、悲しみのあまり身投げしようとします。
その時、お地蔵様が現れ、座頭と護摩の灰の眼を入れ替えてしまいます。
気づいた二人は「眼を返せ!」「金を返せ!」と喧嘩を始めます。

解 説

大岡越前名裁き「三方一両損」を「地蔵尊」にかけたおはなしです。残っていた古い台本を元に、令和元年の5月に復活しました。

かたもん
篁冥途噺写真1

あの世とこの世を行き来できる神通力をもった小野篁(おののたかむら)は、葬送の地「蓮台野(れんだいの)」で命を落とした二人の男の行く末に興味を持ち、冥途の「えんまの庁」でのお裁きに立ち合います。
二人の亡者は、浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)の中に自分の生前の行い全てが映し出されている事を見て、驚きます。根は善良な一の亡者がそれによって悔い改めるのに対し、二の亡者はそれでも嘘を重ねて罪を逃れようとします。
篁冥途噺写真2 しかし、えんま法王の目はごまかせません。
さてえんま法王の御裁きはいかに・・・。

解 説

この演目は千本ゑんま堂の開基小野篁を知っていただくために、戸田義雄により作られた新作狂言(令和4年(2022年)初演)です。

篁冥途噺解説写真
やわらかもん
二人大名写真1

大名の右内は、左内を誘って東山清水寺へ参詣に出かけます。 しかし家来を連れてこなかった二人は太刀を持ってくれる仮の家来を探します。 ちょうどそこへ町人が通りかかります。ふたりは町人を脅して無理やり太刀持ちに仕立て上げます。
二人大名写真2 しかしこの町人、間が抜けているのか賢いのか、はじめは二人の言うままに従っていましたが、やがて持たされた太刀を使って逆に二人の大名を脅し、色々と注文をつけ始めます。

解 説

庶民の権力者に対する風刺のきいた演目です。

二人大名解説写真
かたもん
船弁慶写真1

頼朝に疑惑を持たれた 源 義経は、弁慶達と共に西国へ逃れようと摂津の国 大物の浦(だいもつのうら)に着きます。
同行していた静(しずか)は、女の身ではこれ以上進むことは難しく、弁慶の助言もあって、都に戻ることになります。
別れの席で静は舞を舞い、義経のこの先を祈り、再会を願って涙にくれながら別れます。
船弁慶写真2 静との別れを惜しみながら、船出した義経達でしたが、船が海上に出ると、突然暴風に見舞われ、波の上に、壇ノ浦で滅亡した平家一門の総大将だった平知盛(とももり)の怨霊が姿を現します。
知盛は、義経を海底に沈めようと、薙刀を振りかざして襲いかかります。弁慶は、力では太刀打ちできないと、数珠を揉んで祈祷します。その祈りの力によって、怨霊は彼方の沖に消えてゆきます。

解 説

前半の静との別れ、後半の知盛との戦いの場と共に、途中で登場する船守の軽妙さが見どころとなっています。
平成30年、古い資料からの推測では約80年ぶりに復活した演目です。

船弁慶解説写真
かたもん
末廣写真1

大名が、お正月のお祝いの進物に、末廣を買ってくるように太郎冠者に申し付けます。
末廣をまったく知らない太郎冠者ですが、大名から伝えられた好みを覚えて、都まで末廣を買いに出かけます。
都に着くと太郎冠者の前に一儲けを企む男が現れます。
男は持っていた番傘を末廣と偽って太郎冠者に売りつけてしまいます。
何も知らない太郎冠者は、大名の好み通りの末廣が手に入ったと大喜びで戻ります。
末廣写真2
屋敷に戻った太郎冠者は、大名に教えられた通りの説明をしますが、古い傘を高額で買わされ戻ってきた太郎冠者を大名は大変怒り、屋敷の中へ閉じこもってしまいます。
困った太郎冠者は大名の機嫌を直そうと考えますが・・・

解 説

おめでたい狂言の代表とも言われる狂言です。
末廣とは扇子のことで、末広がり(将来どんどん良くなって行く)と、縁起の良いもの代表とされよく贈り物として使われていた頃のお話しです。

末廣解説写真
かたもん
靱猿写真1

大名は太郎冠者を従え野狩りに出かけますが、ウサギ一匹捕まりません。仕方なく大名が休憩していると、突然、猿引きに引かれた猿が飛び掛かり、大名を引っ掻いてしまいます。 怒った大名は、その腹いせに新しいうつぼを作るためにその猿を自分に貸すよう猿引きに難題を持ちかけます。
貸すとは言っても、猿を殺し、その皮でうつぼを作りたいという相談です。
靱猿写真2
断る猿引きには矢を向け無理やり脅し取ろうとします。
猿引きは、思い悩んだ末、手塩にかけて育ててきた猿を殺すなら、せめて自分の手でと、ムチを猿に振り上げようとしますが・・・

解 説

狂言を始めた子役がまず最初にチャレンジするのがこの狂言の猿役です。
ちなみに、『靱(うつぼ)』とは、矢を入れて携行する筒状の容器のことです。

靱猿解説写真
やわらかもん
牡丹獅子写真1

大名の屋敷の庭に、見事な牡丹が満開の花をつけました。 しかしその庭の牡丹を、毎晩どこからか獅子がやって来ては、荒らしてしまいます。
困った大名は、太郎冠者に獅子を生け捕りするよう言い付けます。
牡丹獅子写真2
太郎冠者は、色々な方法で獅子を捕まえようと試みますが、なかなか捕まえることができず、とうとう取り逃がしてしまいます。
困った太郎冠者は、逃がしてしまった言い訳を考えます。

解 説

頭・尾、二人により演じられるこの獅子役は、危険で、体力、技能、共に大変難しく、永年の経験・勘を必要とします。
また、この太郎冠者役も大役で、過去に一度でも獅子役を経験したものでないと、踊り・振りを演ずることができないと言われています。
芸だけでなく、高度の運動能力も必要なゑんま堂狂言です。

牡丹獅子解説写真
かたもん
紅葉狩り写真1

平維茂(たいらのこれもち)は、勅命を受け、太郎冠者を従えて信州戸隠山へ鬼神退治に出かけます。 戸隠山に着いた二人は、辺りの紅葉の美しさに、休息し酒宴を始めます。 維茂は太郎冠者に紅葉を折って取ってくるよう申しつけます。
太郎冠者が枝に手をのばすと、どこからか不思議な女が現われて、枝を折る事を邪魔します。 女から事情を聞いた維茂は、女の紅葉に寄せる思いを聞き、女も加えて酒宴を続けます。
紅葉狩り写真2
やがて、維茂と太郎冠者が酒に酔いつぶれて寝込んでしまった事を確かめた女は、維茂から太刀を取り上げ、姿を消してしまいます。
女は鬼神の化身だったのです。
そこへ、維茂を心配して神勅が現れます。神勅は眠る維茂に驚き、二人の呪縛を解き、名刀「小烏丸」(こがらすまる)を維茂に授けて去ります。
目覚めた維茂は全てを知り、勇敢に鬼神と戦います。

解 説

能の影響を受けて、全ての念佛狂言で演じられている演目です。
酒に酔わされ寝てしまった維茂を助ける役に、壬生や嵯峨ではお地蔵様が登場しますが、ゑんま堂狂言では神勅が助けに現れます。
小道具の紅葉は、この演目のために境内で育てているものを使います。

紅葉狩り解説写真
かたもん
土蜘蛛写真1

病に伏せる主君・源頼光(みなもとのらいこう)を、家来の渡辺綱(わたなべのつな)・平井保昌(ひらいほうしょう)が見舞います。日増しに衰弱して行く頼光の病気は、実は土蜘蛛の魔力によるものだったのです。
土蜘蛛写真2
綱、保昌が下がったあと、僧に身を変えた土ぐもが現われ頼光に襲いかかります。頼光は名刀「膝丸」で蜘蛛と戦いますが、もう少しのところで取り逃がしてしまいます。
土蜘蛛写真3
騒ぎを聞き、駆けつけた綱、保昌の二人は、床に落ちた蜘蛛の血をたどって土蜘蛛を見つけ出し、勇敢に戦います。
土蜘蛛写真4

解 説

えんま堂狂言の中でも、特によく演じられる演目です。
この狂言でまかれる蜘蛛の巣の一部を持って帰ると、災難や盗難よけになると言い伝えられ、おめでたいとして、大変人気のある狂言です。

土蜘蛛解説写真
かたもん
道成寺写真1

道成寺の鐘が新調された落慶法要の日、一朗と陀仏坊は、師匠坊に女人禁制を言い付けられます。
しかし二人は、その注意を聞かず、鐘の供養に訪れた美しい白拍子を境内に入れ、奉納舞を舞わせてしまいます。
道成寺写真2
実はその白拍子は鬼神の化身だったのです。過去の恨みをもつ鬼神は、二人を眠らせて鐘を落とし、その中に身を隠してしまいました。
事情を聞いた師匠坊は、今まで長い間、鐘の供養をしていなかった原因は、その鬼神だった事を二人に説明し、念仏の力で鐘を上げ、本性を現した鬼神と戦います。

解 説

狂言だけでなく、能や歌舞伎などでもよく演じられる、お馴染みの演目です。
ゑんま堂狂言の全演目の中で最も長く、45分以上演じられる大作です。
重厚な部分と、コミカルな部分を併せ持ち、ゑんま堂狂言の最重要演目と言われ、昔から大切に伝えられてきました。
通常、本公演最終日の夜にだけ上演される、年に一度だけしか見る事ができない特別な演目です。

道成寺解説写真
かたもん
千人切り写真1

四役が本堂に着座。読経のあと金剛杖を授けられた為朝と矢を授けられた烏は、親鬼と子鬼を従えて、客席を通って舞台にあがります。
千人切り写真2
烏が舞台中央で六方に矢を放つ所作の後、演者全員が舞台に登場します。
千人切り写真3
まず、烏が為朝に呼ばれて切りかかりますが、逆に切られます。
次に入会年の浅い演者から順に為朝に切られ、最後に子鬼と親鬼も切られます。
千人切り写真4
為朝に切られると災い除けになると昔から伝えられています。
金剛杖を奪おうとする親鬼と子鬼は、何度も試みますが叶わず、ついに為朝に降参します。
千人切り写真5
そのあと全員で本堂に移動し、お客様も順に為朝に切られます。
千人切り写真6

解 説

ゑんま堂狂言は「えんま庁」で始まり「千人切り」で終わります。

千人切り解説写真 公演の最終日の一番最後の演目で、カラス役以外の演者全員、面を付けないで演じる宗教色の濃い内容です。 寺伝により、地域を荒らしていた盗賊たちが、守護役人・為朝(ためとも)に退治されて善心を取り戻すという演目です。
為朝役は、毎年出演者の中からひとりづつ順番で選ばれるため、何十年に一度しか巡ってこない大役です。 脇役のカラス・親鬼・子鬼は三役と呼ばれ、翌年・翌々年には為朝を演じます。
この狂言は、えんま堂狂言の根本となる演目で、後半は舞台から本堂に全員が移動し、念仏を唱えながら、えんま様の前を回ります。その後「千人切り」に使われた矢が、希望されるお客様に振る舞われます。(有料) この矢は、家に持ち帰って玄関の鴨居の上に奉ると、万一泥棒が入った場合、百貫の重さで頭の上に落ちてきて泥棒を押さえ付けるため、災難除けになると昔から伝えられています。
そのあとは、公演の無事終了を喜び、全員で手打ちをして、最後に為朝役を演者で胴上げして、公演はおひらきとなります。

千人切り解説写真